会社としてのコラムで、個人的なSNSでのやりとりからの気付きを取り上げるのもいかがなものかとは考えたのですが、弊社のビジネス領域と強く関係しますし、また弊社の今後の「用語選択」という点でも非常に参考になる、そして考える機会を頂いたので、簡単にですが書き残しておこうと思います。

きっかけは、木達氏の X(旧 Twitter)への投稿(下記)に対して、

私が下記のように返答させて頂いたこと。

このやりとりの中で、「読書バリアを解消する電子書籍とは」と題したセミナーの件と、数ヶ月前に「障害者ドットコム」ウェブサイトに掲載された作家、市川沙央氏のインタビュー記事(下記リンク)の存在を教えて頂きました。

まず、上記のインタビュー記事なのですが、一番最後、

令和6年4月から障害者差別解消法が改正され、合理的配慮の提供が民間事業者にも義務化されましたが、日本の「障害者差別解消法」に対して思うところがあれば、お聞かせください

というインタビュアーからの質問に対して、市川氏は、下記のように述べられています。

「作家としてここは『言葉』について語ります。『合理的配慮』という訳はほとんど誤訳と言ってよく、今からでも『合理的調整』とするべきだと考えています。例えば『rights』は『権利』ではなく『権理(権理通義)』(by福沢諭吉)と訳すべきだった、つまり『利』という字のネガティブな印象のせいで人権を理解できない国民になってしまったという話もあるように、こうした言葉の誤選択は国民の精神性に悪影響を及ぼし尾を引いたりするので、私は意地でも『合理的調整』と書いていこうと思います」

また、前述した「読書バリアを解消する電子書籍とは」セミナーで講演された石川准氏の演題、「読書における障害者差別解消の推進について」資料(15ページ)の中でも、

合理的「配慮」とは「気遣い」や「心配り」のこと?

いいえ、違います。
合理的「配慮」は合理的「環境調整」と読みかえてください。

という記述があり、改めて、何気なく使っていた「配慮」「合理的配慮」という用語について、自分はそこまで深く考えていなかったことに気付かされました。

弊社では会社設立当初から『ウェブアクセシビリティへの取り組みは、例えば障害者の方など、「特定の利用者」に対して、特別に何かを「してあげるもの」ではないですよ』とクライアント様に説明してきましたし、『ウェブアクセシビリティへの取り組みは、すべての利用者に対して情報へのアクセスを容易にし、ウェブサイトの操作性や検索発見性(ファインダビリティ)を含む利便性を向上させ、利用者の満足度や好感度を高め、機会損失を減少することで、結果的に利益をもたらすもの』であるという考えをお伝えしてきました。

しかし、「配慮」という「特別に何かをしてあげること」というニュアンスを含む用語については深く考えずに使っていたこともあり、言われてみれば矛盾してるなと。

弊社でも仕事柄、「障害者差別解消法」についてクライアント様からのご相談(当然ながら、法律的なご相談ではなくウェブアクセシビリティ対応に関連してですが)を頂いたり、それに対してご説明をさせて頂く機会は多いですが、今後はなるべく「合理的調整」、「合理的環境調整」という用語を選択するようにしてみたいと思います。

ところで、情報通信アクセス協議会・ウェブアクセシビリティ基盤委員会が定める「ウェブコンテンツの JIS X 8341-3:2016 対応度表記ガイドライン」内でも「準拠」「一部準拠」と合わせて「配慮」という用語が定義されていますが、「配慮」という用語をなるべく避けたい場合、どう言うのが適切でしょう?「調整」は意味が通じない気もしますし...... 「努力」? 「取組中」などでしょうか。完全に余談ですが。

ちなみに、これはあくまで弊社の考え方であって「配慮」という用語や、それを使うことが悪い、良くないという話をしたいわけではありませんので、その点はあらかじめご了承ください。