弊社は、ウェブアクセシビリティチェック(試験)サービスを公的機関や企業向けにご提供していますが、お問い合わせの中で「検査証明書を発行してもらえますか?」というご質問やご要望をいただくケースが増えております。
企業や組織のご担当者様がウェブアクセシビリティ試験に対して、「検査証明書」をお求めになる背景には、おそらく実務的なご事情があるものと推察いたします。
社内での稟議や上司への報告において「検査証明書があれば説明しやすい」「形として残るものが欲しい」といったニーズ、あるいは第三者によって試験してもらったという「お墨付き」のようなものが欲しいと思われることについても十分理解できます。
また、アクセシビリティという専門分野について詳しくない方にとって、他の分野でのご経験から「検査」=「検査証明書発行」というイメージを持たれることも自然なことかもしれません。
ですので、弊社としましても、このようなご要望を一方的に否定するつもりはございません。しかしながら、このような事情を考慮してもなお、弊社としてウェブアクセシビリティ試験の本来の目的を踏まえ、「検査証明書」の発行は行わないことを基本方針としております。
なぜ弊社は「検査証明書」を発行しないのか
以前のコラムでも書いていることですので繰り返しにはなりますが、ウェブアクセシビリティへの取り組みは終わりのない長い旅です。
その過程で実施される JIS X 8341-3 や WCAG に基づくアクセシビリティ試験は、あくまで「試験した時点で」どの程度ガイドラインに適合しているのかを評価するものであり、問題点を洗い出し、次の改善プロセスにつなげていくためのものです。
つまり、試験によって、その試験対象となったウェブコンテンツのアクセシビリティ品質が「保証」されたり、第三者によって「認証」されるような性格のものではありません。当然ながら、今日の試験結果が明日以降のアクセシビリティ品質を保証してくれるわけでもありません。
同時に、ウェブアクセシビリティ試験の結果を公的に権威付ける制度も現時点では存在しません ※。仮に弊社が試験したことを「検査証明書」で証明したとしても、それ自体に法的根拠はなく、第三者に対する証明力も限定的です。
弊社としましては、そのような(弊社として実質的な効力が乏しいと判断する)書類の発行に対してお客様にコストをご負担いただくことは本意ではないため、検査証明書につきましては発行しない前提でご案内を差し上げております。
※ 例えば国内では、ISO/IEC 17020 に基づき JAB(公益財団法人日本適合性認定協会)が検査機関を認定する仕組みがあります(ただし、この認定が JIS X 8341-3 を対象としたウェブアクセシビリティ試験に対して法的な根拠や公的な影響を与えるものではありません)。よって「JAB に認定された適合性評価機関による試験である」ということを証明するために検査証明書を使用することには一定の権威付け的な意味があると考えます。しかし、弊社は JAB 認定機関ではないため、弊社独自の「検査証明書」に実質的な意味はないという意味です。
※ 個人向けの民間資格では、IAAP(International Association of Accessibility Professionals)が提供する CPACC / WAS / CPWA など国際的に業界内で認められる資格がありますが、試験結果が「公的に権威付けられる制度ではない」という意味です。
「適合宣言」の作成はお手伝いします
WCAG(JIS X 8341-3 も含む)では、試験結果に基づき、ウェブコンテンツの制作者自らが「適合宣言」をすることを認めています。また、JIS Q 17050 に基づき「供給者適合宣言書」の作成を行うことも可能です。
あるいは、JIS X 8341-3:2016、およびウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)が定める対応度表記ガイドラインに基づき、試験結果を踏まえて、ウェブサイトやウェブコンテンツのウェブアクセシビリティガイドライン対応度を公表することも可能ですが、そのような書類、あるいはウェブページの作成をお客様がご要望の際は、積極的にお手伝いさせていただいております。
繰り返しになりますが、仮に適合宣言などを行ったとしても、そこでウェブアクセシビリティへの取り組みが完結するものではありません。しかし、ウェブアクセシビリティに対する取り組みの成果を可視化する「マイルストーン」としては意義があります。
つまり、適合宣言を公開すること自体が、利用者、取引先、社内関係者に対して「現在ウェブアクセシビリティへの取り組みがどこまで達成できているか」を明示し、かつ「ここで終わりではなく、今後も定期的に点検し、改善を続ける」というコミットメントを明確にすることになります。そのため、コストをかけるに値する部分だと認識しています。
弊社では、コスト効率よく、持続可能なウェブアクセシビリティへの取り組みをご希望の皆さまからのお問い合わせをお待ちしております。