GAAD Japan 2026 - 世界各地でアクセシビリティを考える一日

GAAD(Global Accessibility Awareness Day)は、デジタル分野(ウェブ、ソフトウェア、モバイルなど)のアクセシビリティを考える日として、2012年からスタートした世界的な取り組みです。5月の第3木曜日をGAADの日として、毎年、世界各地でさまざまなイベント等が開催されており、今年、GAAD Japan 2026 は、5月21日(木)に開催されました。

GAADの目的は、デジタルのアクセシビリティとさまざまな障がいのあるユーザーについて、みんなで話したり、考えたり、学んだりする機会を持つことで、日本でも、GAAD Japan として、全国各地、どこからでも参加可能なオンラインセミナーを開催しています。

バーンワークス株式会社はこのイベントの趣旨に賛同し、協賛スポンサーとして微力ながらサポートをさせていただいておりますが、GAAD Japan 2026 では、「セッション1」として、弊社代表の加藤が登壇いたしました。

『やさしく学ぶウェブアクセシビリティ』と題したセッションで、初学者の方を対象に「ウェブアクセシビリティとは何か」「なぜ取り組む必要があるのか」といった、ウェブアクセシビリティに取り組む上で最も基本となる知識についてお話ししましたが、この記事では、その全スライドと、お話しした内容を文字起こしして公開いたします。

なお、各セッションのアーカイブは以下、GAAD Japan 公式 YouTube チャンネルにて公開される予定ですので、ご興味のある方はぜひご覧いただければ幸いです。


GAAD Japan 2026 セッション1 やさしく学ぶウェブアクセシビリティ

皆さんこんにちは。本日はGAAD(ギャード) Japan 2026 にご参加いただきありがとうございます。

「セッション1」を担当させていただく、バーンワークス株式会社、代表の加藤と申します。

まず最初に簡単な自己紹介だけさせてください。

登壇者について

バーンワークス株式会社は2013年の創業以来、一貫してウェブアクセシビリティ対応を専門分野としつつ、ウェブサイト構築やコンサルティングといった企業向けサービスを提供しています。

代表である私は、弊社の創業以前から、フリーランス、あるいはウェブサイト制作会社の役員などを経験しつつ、ウェブ関連の様々なプロジェクトでプロジェクトマネジメント、ディレクション、フロントエンドの実装などに携わってきました。

個人的にも、ウェブ標準やウェブアクセシビリティといった分野に長年関心を持っておりまして、この分野での書籍執筆やブログでの情報発信などを行っています。

この度、ご縁がありまして、この歴史あるGAADでお話しする機会をいただきました。

この機会をくださった関係者の皆さまをはじめ、本日ご参加いただいている皆さまにお礼申し上げます。

セッション1の内容

さて、このセッションでは、「やさしく学ぶウェブアクセシビリティ」と題して、

  • ウェブアクセシビリティとは何か
  • なぜ取り組む必要があるのか

といった、最も基本となる部分を30分という限られた時間ですがお話ししたいと思っています。

特に初学者の方がご覧になってもわかりやすいように、なるべく難しい専門用語を使わずにお話ししようと思います。

このセッションが、「ウェブアクセシビリティについて本格的に学んでみよう」ですとか、「ウェブアクセシビリティについて職場で話してみよう」など、ご覧になった皆さんが次の一歩を踏み出すきっかけとなればうれしく思います。

それではよろしくお願いいたします。

本日お話しすること

さて、改めてですが、先ほども少し触れたとおり、本日お話しすることは概ね次の内容です。

  • ウェブアクセシビリティとは何か
  • ウェブアクセシビリティは誰のためのものか
  • ウェブアクセシビリティになぜ取り組むべきなのか

本日お話ししないこと

一方で、

  • ウェブアクセシビリティガイドラインの解説や関連する法令の紹介
  • 具体的な設計、デザイン、実装方法などの解説やテクニック紹介

といった話題には本日、このセッションでは触れません。

このような、より実践的なお話、いわゆる「How(ハウ)」、「どのように行うのか」という部分については一旦置いておいて、「Why(ホワイ)」、「なぜそれをするのか」という、根本的な部分についてわかりやすくお伝えすることで、皆さんに「ウェブアクセシビリティに取り組む」という具体的な行動を起こす上でのビジョンを提示できればと思っております。

本日感じていただきたいこと

本日ご覧いただいている皆さまは、何らかの形でウェブサイトを含む、ウェブコンテンツをビジネスで活用されている、あるいは、ウェブコンテンツの企画や設計、デザインや実装といったクリエイティブ、またはマーケティングなどに携わっている方々だと思います。

そのような皆さまに、ウェブアクセシビリティに取り組むことで、皆さんが関わるウェブコンテンツが、『より多くのユーザーに使っていただき』、『より多くのユーザーのニーズを満たし』、結果として満足度が高く、より価値のあるものになる、ということを、このセッションの内容から少しでも感じていただければと思います。

次のような誤解を解きたい

特に、もし皆さんの中に、ウェブアクセシビリティに対して、例えば、

  • ウェブアクセシビリティ対応は障がい者や高齢者など一部のユーザーのために配慮してあげること
  • ウェブアクセシビリティ対応はコスト(出費)で、儲からない
  • ウェブアクセシビリティ対応は制作現場の仕事で経営層やマネジメント層には関係ない

といった認識をお持ちの方がいらっしゃるとすれば、本セッションを通して、何らかの気付きを得ていただけるのではないかと期待しております。

それでは本題に入ります。

ウェブアクセシビリティとは何か

このイベントに参加し、本セッションをご覧いただいている皆さんおかれましては、すでに「アクセシビリティ」あるいは「ウェブアクセシビリティ」という言葉自体はご存じかと思いますが、今一度この言葉の意味について簡単におさらいしておきましょう。

とはいえ、ここで小難しく、言葉の定義をお話ししても、あまり有意義ではないと思いますので端的に申し上げますと、「ウェブアクセシビリティ」とは

『ウェブコンテンツが、特性や能力の異なる、より多くの人々にとって利用しやすいこと』

と説明できます。

ちなみに、広義における「アクセシビリティ」には、ウェブサイトなど、ウェブ上で提供される情報や機能だけでなく、製品や施設、建物なども含まれますが、「ウェブアクセシビリティ」とすることで、特にウェブサイトなどウェブコンテンツにおけるアクセシビリティを指す言葉として使用されています。

本セッションでは以降、「ウェブアクセシビリティ」という言葉を使ってお話を進めます。

さて、ここで重要なポイントは先ほどの説明で挙げた「特性や能力の異なる、より多くの人々」という部分です。

これは言い換えれば「すべての人が」あるいは「どんな人でも」「利用しやすい」という意味になります。

ウェブアクセシビリティは誰のため?

ウェブアクセシビリティという言葉を聞いたときに、どうしても「障がい者のため」「高齢者のため」といったある特定の属性を持った方々を対象に行うものだ、というイメージを持ってしまう方も多いのではないでしょうか?

もちろん、障がい者や高齢者の方々はウェブアクセシビリティ対応の重要な対象ですし、例えば、身体障がい、精神障がい、発達障がい、知的障がいなどにおける、認知的・感覚的・心理的特性を深く理解することは、ウェブアクセシビリティに取り組む上で欠かせないプロセスです。

しかし一方で、そのような属性を持つユーザーは、ウェブサイトを利用するユーザーの一部であり、「すべての人が利用しやすい」状態を実現するためには、そのような一部のユーザーを対象とするだけでは不十分で、より、対象範囲を拡げて考える必要があります。

ウェブアクセシビリティはすべての人のため

そこで、ウェブアクセシビリティ対応を、『特定の「属性」をもつユーザーを対象とした取り組み』ではなく、ウェブサイトを利用する『すべてのユーザーのニーズに対して取り組む』ものだと、少し視点を変えて捉えてみましょう。

例えば、「視覚障がい者」という属性に分類される方でも全盲、弱視、色覚特性、視野狭窄など、その程度や特性は様々で、それぞれニーズが異なります。

そのような様々な特性ごとに考えてみると、例えば次のようなニーズが想定できるかもしれません。

視覚に何らかの障がいがある人のニーズ

  • スクリーンリーダーだけでウェブサイトを使いたい
  • 点字でウェブサイトを読みたい
  • キーボードだけでウェブサイトを使いたい
  • 自分が読みやすいように文字のサイズを変えたり、文字色や背景色をカスタマイズしたい
  • 画面の一部を大きく拡大した状態で使いたい
  • 画面上を探し回らなくてよいように、関連する情報同士は近くに配置して欲しい

もし「視覚障がい者」という属性=(イコール)「目が見えない」人とだけ考えてしまうと、このような多様なニーズにたどり着けないかもしれません。

これは他の障がいについても同様です。

さらに障がいから離れてニーズを探る

さらに障がいから離れて、加齢や一時的な怪我、病気などによる身体、精神的な特性の変化についても想像すると、

  • マウスカーソルをうまく動かせないのでキーボードや音声操作でウェブサイトを使いたい
  • 色が薄いと文字が読めないのでハッキリした色を使って欲しい
  • 画面上に文字が多すぎると読むのに疲れてしまうのでやめてほしい
  • ぱっと見てリンクやボタンがわかるようにしておいて欲しい
  • 動いているスライドショーはうまく操作できないので困る

などのニーズが想定できるかもしれません。

さらにニーズを深掘りする

障がいの有無、年齢に関わらず、さらにニーズを深掘りすると

  • パソコン、スマートフォン、タブレットでも同じようにウェブサイトを使いたい
  • マウスで操作するよりキーボードで操作するのが好み、あるいは作業効率がよい
  • 料理中、レシピサイトを音声アシスタントやAIに読み上げてもらいたい
  • 車での通勤中、ニュースサイトを音声で読み上げながら日課の情報収集をしたい

などのニーズも考えられます。

また、これは実際に経験がある方も多いかもしれませんが、「イヤホンを忘れてしまったので、音声をミュートして動画を観たい」といったニーズもよくありますし、「日本語ネイティブではないので、日本語のウェブサイトをAI翻訳して理解したい」など、ウェブサイトに対するユーザーのニーズは実に多様です。

ウェブアクセシビリティに取り組む目的

そして、これら多様なニーズに対応することにより、「より多くの人々にとって利用しやすい」状態を実現することがウェブアクセシビリティに取り組む目的となります。

つまり、「ウェブアクセシビリティはウェブコンテンツにおける最も基本的な要件である」とも言えるわけです。

ウェブアクセシビリティとユーザビリティの違い

ここまでのお話で、「多くの人にとっての使いやすさ」って、「ユーザビリティ」のことじゃないの? と疑問に思った方もいらっしゃるかもしれません。

ウェブアクセシビリティとユーザビリティの違いついても簡単に触れておきましょう。

ユーザビリティとは

まず、日本産業規格、JIS Z 8521:2020 では、ユーザビリティという言葉を次のように定義しています。

特定のユーザーが特定の利用状況において、システム、製品又はサービスを利用する際に、効果、効率及び満足を伴って特定の目標を達成する度合い

つまり、ユーザビリティというのは、「ある特定のユーザーの、特定の利用状況を想定した上で、そのユーザーが特定の目的を遂行するにあたっての、達成度合いや満足度、あるいは作業効率などを指している」ということがわかると思います。

ウェブアクセシビリティとユーザビリティ

これは、ターゲットとなるユーザーを決め、そのターゲットユーザーが最も使いやすいようにチューニングしていくようなイメージになります。

しかし、ターゲットユーザーに選ばれなかった人にとっては、もしかすると使えない、あるいは使いにくいウェブコンテンツになってしまう危険性も秘めています。

一方で、先ほども説明したとおり、ウェブアクセシビリティにおいては、特定のターゲットに絞ることなく、理想的にはすべてのユーザーの多様なニーズに対応することを目的とします。

土台作り(裾野)と満足度向上(高さ)

ウェブアクセシビリティとユーザビリティはどちらももちろん重要なのですが、ウェブアクセシビリティは「まず誰もが使えるようにする」という土台作りと考えるとわかりやすいでしょう。

その上で、あるターゲットユーザーがより使いやすく、満足度が向上するようにユーザビリティを高めていく。

ウェブサイトを利用できるユーザーの裾野をウェブアクセシビリティで拡げ、ユーザビリティで満足度を高めていく、という風にとらえると、先ほど申し上げた、「ウェブアクセシビリティはウェブコンテンツにおける最も基本的な要件である」ということの意味がおわかりいただけるのではないでしょうか?

ウェブアクセシビリティの欠如が招くもの

さて、ウェブアクセシビリティはユーザーの多様なニーズに対応することにより、「より多くの人々にとって利用しやすい」状態を実現することと先ほど説明しました。

では逆に、ウェブアクセシビリティが欠如したウェブサイトでは何が起こるでしょうか?

ウェブアクセシビリティが欠如すると

簡単に言ってしまえば、一定数のユーザーが、そのウェブサイトが提供する情報や機能を「使えない」あるいは「使いにくい」状態になります。

これは、もし「お店」に例えるなら、せっかく来てくれたお客様を入り口で追い返したり、探している商品を隠して見えないようにしたり、買おうと思っても簡単には会計できないようにする。そんな状況と言えます。

実際のお店でこんな対応をする店主はまずいないでしょうけども、

  • 「ウェブアクセシビリティなど重要ではない」
  • 「ウェブアクセシビリティに取り組む必要はない」

などと考えることは、これと同様の行為を自覚的に行っているに等しいと言えます。

また、そこまで自覚的にウェブアクセシビリティを軽視していないとしても、ウェブアクセシビリティを「知らない」、「知ろうとしない」という態度が、無自覚に一部のユーザーに対して利用上の困難を与え、結果的にウェブサイトやサービスの利用を諦めさせてしまうという、最悪の結果を招く可能性があることを認識しなければなりません。

自覚的か無自覚かに関わらず......

もし、あなたのウェブサイトを訪問し、あなたが提供するサービスや商品を利用したいと思っていたユーザーの一部を知らないうちに排除してしまっていたとすれば、どう思いますか?

それは大きな機会損失だと感じるはずです。

また、インターネットやウェブが、もはや日常生活には欠かせないインフラとなっている現代において、国や自治体、公的機関がウェブサイトを通じて発信する情報や、提供する機能を利用できない人がいたとすれば、最悪の場合、その人の財産や生命に関わる重大な問題となる可能性もゼロではありません。

ウェブアクセシビリティに取り組むことで、このような機会損失を回避し、重要な情報や機能を利用できずに取り残される人の数を減らしていくことができます。

障がいの社会モデルと医学モデル

加えて、「障がいの社会モデル」について触れておきましょう。

障がいの社会モデルは、障がいを個人の身体的・精神的な機能の問題ではなく、社会の側にある障壁(バリア)によって生み出される問題としてとらえる考え方です。

1983年にイギリスの障がい学研究者マイク・オリバー氏が「社会モデル」という用語を初めて使用し、理論化しました。

「社会モデル」以前に用いられてきた「医学モデル」と呼ばれる考え方では、障がいを、個人の身体的・精神的な機能の欠損や、異常としてとらえるのに対し、「社会モデル」では、障がいを社会の側にある、物理的、制度的、あるいは意識的な障壁によって生み出される問題としてとらえます。

つまり、障がいというのは「障がい者」という属性を持つ人達の側に生じるものではなく、「障がい者」という属性によって、社会参加することを制限されたり、あるいは難しくするような障壁が生まれている状態のことである。という考え方で、そのような障壁がすべて取り除かれるのであれば、社会モデルにおける「障がい」は存在しないということになります。

制作者にとって重要な視点

ウェブアクセシビリティに話を戻せば、ウェブサイトを利用できないのはその人の特性や能力の問題であるという考え方は、従来の医学モデルの考え方です。

社会モデルで考えれば、当然ながらウェブサイトが利用できないのは、ウェブサイトを制作し、提供している側の責任となります。

逆に言えば、ウェブアクセシビリティに取り組むことで、社会モデルにおける「障がい」を自らの手で減らしていく、あるいは障がいのない世界を実現するということに、少なからず貢献することができるということです。

ウェブアクセシビリティに取り組む経済的メリット

ここまで、「ウェブアクセシビリティとは何か?」について説明してきました。

ウェブアクセシビリティに取り組むことで多くのユーザーのニーズに対応できること、ウェブサイトを利用できる人の数、つまりユーザーの裾野を拡げられること、それによって機会損失を削減できること、といったメリットについてもご説明しました。

ウェブアクセシビリティはコストか?

しかし現時点ではまだ「ウェブアクセシビリティはコスト」である、つまり、ウェブアクセシビリティにお金や時間をかけても、それ自体は「売上」や「儲け」など、「経済的メリット」に直結しない、とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。

一方で私は「ウェブアクセシビリティへの取り組みは強力なマーケティングであり、重要なマネタイズポイント」であると捉えていますので、続けてご説明します。

ウェブアクセシビリティの経済的メリット

まず大まかにウェブアクセシビリティに取り組むことで生まれる経済的メリットを挙げてみましょう。

  • 市場拡大効果
  • ブランド価値の向上
  • コスト削減メリット
  • リスク回避効果

などが考えられますが、それぞれ掘り下げていきます。

1.市場拡大効果 ー 潜在顧客の獲得

まず最初に、ウェブアクセシビリティに取り組むことで新たに顧客となりうる人々の市場規模を考えてみましょう。

世界保健機構(WHO)が公開しているファクトシートによると、障がいのある人々は全世界で13億人と推定され、これは世界人口の約16%に相当します。

また、障がい者とその家族や友人を含めた購買力、市場規模は推定13兆ドル、日本円で言うと概ね2000兆円ともされており、重要な経済セクターとして認識されているだけでなく、ビジネス機会としても注目されています。

ちなみに、市場規模の算出において、なぜ障がい当事者だけでなく、その家族や友人などを含めるのかと言うと、アクセシブルな製品やサービスを提供する企業に対して、障がい者の家族や友人も「ブランドロイヤルティ」つまり、「製品やサービスに対する高い信頼や強い愛着」を示す傾向があることが指摘されているためです。

アクセシビリティを重視する企業は障がい者本人だけでなく、その周囲の人々からも支持を得られるため、結果として市場が大幅に拡大するということですね。

日本国内においても、厚生労働省による調査では、国内人口の約9.3%が何らかの障がいを持つ人であるという結果が出ており、その数は推計値ですが、1164万6000人にのぼるとされています。

これら事実から、ウェブアクセシビリティに取り組むことで、巨大な潜在顧客層にリーチする可能性が高まるということです。

逆に考えれば、ウェブアクセシビリティを軽視することにより、多くの障がい当事者だけでなく、その家族などを含め、非常に多くの潜在顧客を逃すリスクがあるということもわかります。

1.市場拡大効果 ー 高齢者市場への対応

次に、高齢者市場の存在も考えてみましょう。

皆さんもご存じの通り、日本は65歳以上が人口の約30%を占める、超高齢社会です。

一方で健康意識の高まりや、医療の発達などにより、健康寿命は延びていますし、インターネットやウェブを利用する高齢者の方も年々増加する成長市場でもあります。

今後の国内市場を考えたとき、購買力のある高齢者市場にリーチすることはとても重要になりますが、ウェブアクセシビリティへの取り組みは、高齢者の方々がもつ多様なニーズにも応えることができるため、今後、競合他社に対してアドバンテージとなるのは明白でしょう。

1.市場拡大効果 ー 顧客との接点増加

さらに顧客との接点、タッチポイントの増加という観点での効果も考えられます。

ウェブアクセシビリティ対応は、ユーザー、つまり人間の多様なニーズに対応するものですが、そのためには、ブラウザやスクリーンリーダーなどの「プログラム」、つまり「機械」が、ウェブコンテンツの意味や機能を正しく知覚、理解してユーザーに伝達し、ユーザーが操作可能な状態であることが前提となります。

プログラムによって意味や機能が知覚、理解しやすい状態になっているコンテンツを「マシンリーダブル」、日本語で言うと、「機械可読」なコンテンツと呼びますが、ウェブコンテンツがマシンリーダブルになることで、人間のユーザーだけでなく、検索エンジンやAI技術など、プログラムにとっても情報処理がしやすくなり、結果としてウェブサイトの評価や、利便性が向上します。

ウェブサイトが検索エンジンや生成AI、AIエージェントにとって参照しやすくなるということは、AIなどを使用して効率的に情報処理をしたいというユーザーのニーズに応えると同時に、検索エンジンやAI検索などのプログラムを経由して、潜在顧客にリーチする可能性が高まるということでもあります。

2.ブランド価値の向上

次にブランド価値向上という視点でも考えてみましょう。

世界的にCSR(企業の社会的責任)が重視され、ESG投資への関心が高まる中で、『ユーザーのニーズに応えることで誰ひとり取り残さない』というウェブアクセシビリティへの取り組みは、企業が多様性と包摂性(ほうせつせい)を重視しているという強いメッセージとなりますし、社会的信頼の向上に寄与します。

例えば投資家や顧客からの信頼が向上するだけでなく、採用活動などにおいてもプラスの効果をもたらす可能性があります。

ブランド価値向上における重要な視点

さらに、ウェブアクセシビリティを考慮したウェブサイトは、「誰もが利用しやすい」という印象を通して、顧客のブランドロイヤルティを強化します。

これは競合他社との差別化に直結するだけでなく、結果として長期的な企業価値の向上に貢献します。

「誰もが等しくウェブコンテンツを利用できるようにすることで、企業と顧客の両方にとって Win-Win(ウィンウィン)の関係が成り立つ」ということを理解すれば、ウェブアクセシビリティに取り組むことはごく当然のことなるでしょう。

3.コスト削減メリット

さらにコスト削減面での経済的メリットも考えてみましょう。

ウェブアクセシビリティ上の問題によって、ウェブサイトを利用できない、あるいは利用しづらいユーザーが増えるほど、カスタマーサポートへの問い合わせは増加しやすくなります。

しかも、その内容は「注文できない」「予約できない」などといった、本来発生しなくてもよいネガティブな問い合わせになりがちです。

サポート対応にかかるコストは定量化が難しい側面があります。

しかし実際には、問い合わせ対応の人件費だけでなく、調査や再現確認、社内での情報連携に加え、実際の個別対応やクレーム処理など、多くの隠れたコストを発生させています。

さらに、ユーザー体験の悪化によって機会損失や離脱が発生すれば、その影響は単なるサポート費用に留まりません。

一方、ウェブアクセシビリティに優れたウェブサイトは、多くの場合「誰にとっても理解しやすく、操作しやすい」ため、結果として、ユーザーが自己解決しやすくなり、不要な問い合わせを減らすことにつながります。

また、これは副次的な効果ですが、ウェブアクセシビリティへの取り組みは、ウェブコンテンツの制作、開発プロセスの標準化にも寄与します。

適切なHTMLの使用、設計やデザイン、実装ルールの整理、品質チェックプロセスの整備などは、品質の安定化だけでなく、保守性や開発効率の向上にも直結します。

コスト削減における重要な視点

つまり、ウェブアクセシビリティに取り組むことで、組織全体の生産性を高めることができるというわけです。

4.リスク回避効果

最後のリスク回避効果は、今お話ししたコスト削減にもつながるメリットです。

海外における民間調査の結果などから、ウェブアクセシビリティの問題で訴訟を起こされてからそれに対応するコストよりも、最初からウェブアクセシビリティに投資するほうが遙かに経済的であるという傾向が指摘されています。

つまり、訴訟を起こされて裁判で争ったり、その結果を受けて改善対応をするより、最初からウェブアクセシビリティに投資するほうが結果的にはコストを削減できるということですね。

ウェブアクセシビリティに関連する訴訟リスクについて、日本国内に限定すると現時点で身近なものではありませんが、海外ではすでに一般的な話題です。

他国のことだから関係ないと考えず、同様の流れが日本国内でも起こることを想定して対策する必要があるでしょう。

経済的メリット おさらい

以上、4つの項目を挙げて経済的メリットを説明してみました。

ウェブアクセシビリティへの取り組みは単なるコストではなく、様々な経済的メリットがあることをご理解いただけたでしょうか?

なお、これら様々なメリットは経営層、マネジメント層が、ウェブアクセシビリティへの取り組みに対して積極的にコミットすることでその効果が最大限発揮されます。

ウェブアクセシビリティ対応は「制作現場だけの仕事」などと考えず、経営課題として取り組むことがとても重要です。

本日お話ししたこと

さてここまで、

  • ウェブアクセシビリティとは何か
  • ウェブアクセシビリティとユーザビリティの違い
  • ウェブアクセシビリティの欠如が招くもの
  • ウェブアクセシビリティに取り組む経済的メリット

についてお話ししました。

覚えておいていただきたいポイント

ウェブアクセシビリティとは何か、ユーザビリティとは何が異なるのか、というお話の中で、ウェブアクセシビリティへの取り組みは誰か特定のユーザーに対して特別に何かをしてあげる「付加価値」のようなものではなく、すべての人がウェブコンテンツを利用しやすくするための土台作りであり、「ウェブアクセシビリティはウェブコンテンツにおける最も基本的な要件」だ、ということをご理解いただけたのではないでしょうか。

また、ウェブアクセシビリティを軽視してしまうことで、大きな機会損失が生まれている可能性や、ユーザーがウェブサイトを利用できない、利用しにくいという状況を生んでいるのはユーザー自身の特性や能力の問題ではなく、ウェブサイトを提供している側の問題だということもご認識いただけたかと思います。

その上で、ウェブアクセシビリティに取り組むことは、単にウェブサイトを修正したりといった保守、運用コストではなく、潜在顧客との接点を増やしたり、顧客のブランドロイヤルティを強化することでサービスやブランド、企業の価値を高めるための、重要な「投資」である点を説明いたしました。

最後に

さて、最後に皆さんにお願いがあります。

今日のお話の中で、何かひとつでもよいです。

「これは自分たちにも関係あるかも」と感じていただけた点があれば、ぜひ仲間内や職場で「ウェブアクセシビリティ」を話題にしてみてください。

ウェブアクセシビリティ対応は、制作現場だけ、経営層だけ、など一部の人達だけでは前に進みません。

ウェブコンテンツに関わるすべての人がその重要性や楽しさに気付き、一緒に取り組む必要があります。

ぜひ、本日ご参加いただいた皆さんが、周りの人を巻き込み、動かす力になっていただけたらとてもうれしく思います。

一緒に、すべての人が使いやすい、よりよいウェブの未来を作っていきましょう。

さらに深く学びたい方へ

最後にひとつだけ、紹介させてください。

今日のお話を聞いてウェブアクセシビリティについて「もう少し詳しく学んでみたい」、あるいは「職場で話すときの材料がほしい」と感じてくださった方に最適な、本セッションでお話ししたような基本的な内容から、特に企業においてウェブアクセシビリティに取り組む際に知っておくべき内容をわかりやすくまとめた「いちばんやさしいウェブアクセシビリティの教本」という書籍を今年の2月末にインプレス社より上梓いたしました。

もう少し詳しくウェブアクセシビリティを学びたいという方にとって、知っておくとよいことを網羅した内容となっておりますので、もしご興味がありましたらお近くの書店にてぜひチェックしてみてください。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。


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