先日、Googleは「モバイル ファースト インデックス(Mobile First Index / MFI)」と呼ばれる、モバイルデバイス向けページに対する評価を基準とするインデックス方式の導入を正式発表しました(この計画自体は昨年10月にラスベガスで行われた「PubCon Las Vegas 2016」にて発表されています)。

これまでのGoogleの検索は、デスクトップ(パソコン)向けに作成されたWebページを基準に評価を行い、検索結果のランキングを行っていました。つまり、スマートフォンなどからモバイル検索を行った場合でも、その検索結果を決めるのは、あくまでデスクトップ向けに作られたページに対する評価だったということです。

ところが、「モバイル ファースト インデックス」においては、文字通り、モバイルデバイス向けのページに対する評価を優先して検索結果を表示します。デスクトップ向けとモバイルデバイス向けページの立場が入れ替わり、デスクトップで検索したとしてもその検索結果はモバイルデバイス向けページに対する評価を基に決定されることになります。

なお、「モバイル ファースト インデックス」は今後数ヶ月をかけてテスト実施していくとのこと。いつから完全に切り替わるのかという時期についてはGoogleも現時点では明らかにしていません。

モバイル検索の割合がデスクトップからの検索を超えた昨今

昨年の5月にGoogleの検索連動型広告「AdWords」に関する2015年版メジャーアップデートの発表行われた際、その中で、Google は「アメリカや日本を含む10か国において、モバイルデバイスからの検索が、デスクトップからのそれを超えている」と発表しました(下記記事参照)。

具体的には冒頭にある下記の記述になります。

In fact, more Google searches take place on mobile devices than on computers in 10 countries including the US and Japan.

Building for the next moment : Inside AdWords から引用

近年のモバイルデバイスの普及速度は今更いうまでもない勢いですが、それに伴い、検索に利用されるデバイスも今までのデスクトップデバイスから、スマートフォンなどのモバイルデバイスにシフトしていっています。結果として去年の時点ですでに、モバイルからの検索がデスクトップからの検索を上回る状態にまでなったということですね。

そしてモバイル検索を優先する流れに

今回の「モバイル ファースト インデックス」導入についても当然、そのような事情を考慮してのものです。例えば一般的にレスポンシブ・ウェブデザイン(RWD)と呼ばれる手法で作成したWebサイトは、デスクトップ、モバイルデバイス向けにそれぞれに同じコンテンツを、同一URLで配信しますが、場合によってはモバイルデバイス向けページのみデスクトップ向けと比べて情報量を削っているケースもよくあります。

例えば、デスクトップ向けページだとかなり詳しく、一方で長大な説明文が書かれているところ、モバイルデバイス向けのページでは読み込み速度などを気にしてサマリーだけ表示し、他は削っている ―主にデータ自体はソースコード上にあるが、スタイルシート(CSS)で非表示にしているようなケースが多いと思います― 場合もあります。

ところが、こういうデスクトップ向けとモバイルデバイス向けで表示される内容が異なるページの場合、デスクトップ向けページの内容に対する評価で検索結果を決めている従来の方式では、モバイルデバイスで検索した際に出てくるページの内容が、ユーザーの期待と食い違ってしまう可能性が出てきます。

モバイルデバイスからの検索に対するユーザー満足度を向上させるためには、モバイルデバイス向けページを基準に評価を行い、それを基に検索順位を決めた方がよいですよね。というのが今回の「モバイル ファースト インデックス」導入につながっているわけです。

ほとんどのWebサイトは悪影響もないし対策の必要もなし

さてここで気をつけなければならないのは、Googleの検索に対してこのような大きい仕様変更が行われる際、必ずといっていいほど不確かな情報が錯綜し、それに振り回されるWebサイト運営者が出てくるという点です。

実際に今回の「モバイル ファースト インデックス」導入が発表されたときも、「デスクトップ向けWebサイトしかないとGoogleのインデックスから消えてしまう」「デスクトップ向けサイトからのリンクが評価されなくなるのでモバイル向けサイトのために新しく外部リンクを集めなければダメだ」「モバイル向けで非表示にしているコンテンツがあるとマイナスだ」...... などといった間違った情報が私が観測している範囲でも見うけられました。

Googleの公式ブログでも下記のように書かれているとおり、

  • レスポンシブデザインや動的な配信を行っているサイトで、主要なコンテンツやマークアップがモバイル版とデスクトップ版で同一である場合は、何も変更する必要はありません。
  • 主要なコンテンツやマークアップがモバイル版とデスクトップ版で異なるようなサイトの設定を行っている場合、いくつか変更を検討してみてください。
    • 構造化データ マークアップがデスクトップ版とモバイル版の両方で配信されるようにします。
    • 構造化データ マークアップの同一性を確認するには、構造化データ テストツールにデスクトップ版とモバイル版の両方の URL を入力し、出力結果を比較します。
    • モバイルサイトへ構造化データを追加する際は、それぞれのドキュメント特有の情報に関係のないマークアップを大量に追加するのは控えます。
    • robots.txt テスターを使用してモバイル版のコンテンツに Googlebot がアクセス可能であることを確認します。
    • rel="canonical" リンク要素を変更する必要はありません。デスクトップとモバイルのそれぞれの検索ユーザーにとって適切な結果を表示するために、Google はそれらのリンク要素を引き続き使用します。
  • Search Console でデスクトップ版のサイトしか確認していないサイト所有者は、モバイル版のサイトの追加および確認を行ってください。
  • デスクトップ版のサイトしか存在しない場合、Google は引き続きデスクトップ版のサイトをインデックスします。モバイルユーザーエージェントを使用してアクセスする際も問題ありません。
  • デスクトップ ユーザーにとって使いやすいサイトは、壊れたり不完全なモバイルサイトよりも、モバイルユーザーにとって好ましい場合があります。モバイルサイトを作成する際は、サイトが完成し準備が整ってから公開することをおすすめします。

モバイル ファースト インデックスに向けて : Google ウェブマスター向け公式ブログから引用

ごく一般的な手法で作成されたWebサイト/ページは大きな影響を受けません。もし影響があるとすれば下記のようなWebサイト/ページになるのではないかと予想されます。

  1. デスクトップ向けページとモバイル向けページでコンテンツにとても大きな差異がある場合
  2. デスクトップ向けとモバイル向けのページが 1:1 になっていない場合
  3. 自動変換ツールなどによってとりあえずのモバイル対応がされている場合

デスクトップ向けページとモバイル向けページでコンテンツにとても大きな差異がある場合

レスポンシブ・ウェブデザインにより、同一URLでのデスクトップ/モバイル向け配信がされる実装がされていたとしても、サーバサイドでの動的生成、もしくはスタイルシートによってデスクトップ向けとモバイルデバイス向けページでコンテンツに大きな差異がある場合で、しかもモバイルデバイス向けページの方がコンテンツが著しく少ない場合に影響が出ることが考えられます。

例えばモバイルデバイス向けページでは全文を表示せず、自社アプリのインストールを促すような仕組みにしているWedサイトなどは大きな影響が出るかもしれません。アプリをインストールしないと全文が読めない時点でユーザーの利便性を考えているとは思えませんが......

ここで注意しないといけないのは、モバイルデバイス向けページで一般的に行われる、アコーディオン型ユーザインターフェース(UI)やタブ型UIの実装については、初期状態で非表示になっているものの、ユーザーの操作によって閲覧が可能なものですし、ユーザーの利便性を高めるためにこれら実装を行うことは全く問題ないということです。

問題なのは、ユーザーが全く閲覧できない状態にコンテンツの一部を隠したり消したりした場合です。当然、ページ内に記述がない内容については評価されませんので、前述したように、デスクトップ向けページではかなり細かく長文で説明しているのに、モバイルデバイス向けページではそのほとんどを削ってしまっているといった極端なことをやると、モバイルデバイス向けページにある内容で評価されたとき、検索順位が変わってしまう可能性があります。

とはいえ、通常はモバイルデバイス向けだからといって元々きちんと書かれている説明文をわざわざ消す必要もないわけで、きちんとユーザーの利便性を考えて作られたページであればこのような状態にはならないと思います。「重要なコンテンツであればすべてのデバイス向けに提供すべき」というのは基本です。

ところで、こういうことを書くと、今度はデスクトップ向けとモバイルデバイス向けページで一言一句全く同じコンテンツでないとダメなのでは? といった考えを起こす方もいるかもしれませんが、これも間違いです。

一般的にモバイルデバイスでは不要、あるいは利用しづらいコンテンツやUIパーツをモバイルデバイス向けページでは表示しなようにしていたり、表示を変更したりするケースは多々ありますが、ユーザーの利便性を考えれば合理的な判断で、そんなことで評価は変わりません。

また、Webサイトの目的によってはあえてデスクトップ向けとモバイルデバイス向けで異なる内容にした方がユーザーの利便性が向上する場合もあります。例えばデスクトップ向けとモバイルデバイス向けで利用シチュエーションが全く異なり、ユーザーが求める情報が大きく変わるような場合が考えられますが、それがユーザーのためになるのであれば迷わず異なる内容で公開すればよいと思います。

デスクトップ向けとモバイル向けのページが 1:1 になっていない場合

意図してそうしているのであれば全く問題ないと思いますが、ページによってデスクトップ向けしか用意されていないような状態が意図せず存在している場合は注意が必要かもしれません。

今まではデスクトップ向けページの評価でモバイル検索でも表示されていたものが、同レベルのコンテンツを持つ競合Webページがきちんとモバイル対応していた場合、そちらが表示されることで結果として検索順位が大きく変動する場合があります。

スマートフォン向けサイトを別ドメインで作ったのはよいものの、予算や期間の関係でデスクトップ版のすべてのページと対応する形では用意できませんでしたといった場合などが考えられます。

自動変換ツールなどによってとりあえずのモバイル対応がされている場合

自動変換ツールが悪いとはいいませんが、モバイル向けページの必要性が急激に高まった数年前に急遽対応しなければならなくなったというならいざ知らず、今どきこのようなツールを利用する意味はほとんどありません。きちんとデスクトップ、モバイル向けに設計を行い、実装するだけの時間的余裕とブラウザの対応をはじめとした技術的な条件が今ではそろっています。

また、このようなツールを利用しているかに関わらず、「とりあえずのモバイル対応」をすると、トップページと2階層目だけレスポンシブ・ウェブデザインで他のページはデスクトップ向けページのみのままといった中途半端な対応をするケースもよくあります。

このような場合も、主に検索経由でのアクセスを集めていたのがモバイル対応されていない末端の記事ページだったりすると、多少の影響が出る可能性がありますね。

今後Webサイトをリニューアルする場合などには、マルチデバイス向けのWebサイト構築に関するきちんとした知識と実装能力を持ったWebサイト制作者に依頼をすれば間違いないでしょう。逆にきちんとした知識がない実装者が制作を行うと、単にユーザー満足度が下がるだけでなく、検索結果にも影響を及ぼす可能性が否定できなくなりました。

またここでも注意しなければならないのは、「SEO(検索エンジン最適化)のためにはレスポンシブ・ウェブデザインにしないといけません」ですとか、「レスポンシブ・ウェブデザインにすればSEOに有利です」などというWeb制作者に注意しなければならないということです。

このコラムでの何度か書いていますが、実装方法、使用技術などの選択は、その選択がWebサイトの目的達成にプラスに働くのか、ユーザー満足度の向上に寄与するのか、といった点を第一に考えるべきです。「SEOのために」などという理由で選択するべきではありませんし、それによって何か有利になるといったこともありません。


「モバイル ファースト インデックス」はある意味時代の流れです。ですが、ユーザーの利便性を第一に考えてWebサイトを設計し、コンテンツを企画しているWebサイト運営者にとっては、何か不利益を被るような変更ではありませんし、むしろ歓迎する流れになると思います。

もちろん、一部の超大規模Webサイトなど、その規模やページの増加速度が原因で今回の変更に伴い色々と対応に追われてしまうケースもあるかもしれませんが、そういう方はごく希なケースということで、一般的なWebサイト管理者はおかしな情報に惑わされず冷静に対応するのがよいと思われます。

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