「海外アクセシビリティ関連情報紹介」は、海外におけるウェブアクセシビリティ関連の記事やレポートから、弊社が気になったものを要約してお伝えするコラムです。正確な内容につきましては参照元として提示しているリソースをご確認ください。
弊社でも日常的に利用させていただいている、アクセシビリティテストツールのデファクトスタンダード「axe」を開発する、Deque Systems 社が公開した「Digital accessibility and the cost of exclusion(デジタルアクセシビリティと排除のコスト)」というブログ記事をご紹介。
この記事では「アクセシビリティを軽視することで企業が被る不利益」にフォーカスした解説が行われています。いわゆる「アクセシビリティのROI(投資対効果)」を定量・定性両面から解説する内容で、企業がアクセシビリティに取り組む重要性と、その具体的なメリット(アクセシビリティを軽視することによるデメリット)がわかりやすく整理されていましたので、重要なポイントを抜粋してみましょう。
なお、記事内では「Digital accessibility(デジタルアクセシビリティ)」という用語が使用されていますが、本記事ではすべて「ウェブアクセシビリティ」あるいは「アクセシビリティ」として記述しています。
4つの柱(Four pillars of digital accessibility value)
参照元記事では、ウェブアクセシビリティの価値を支える『4つの柱』について解説されています。その上で、それら4つの柱それぞれに、ウェブアクセシビリティに取り組まないという選択をすること(つまり「排除」)によって、どのような経済リスクがあるのか、についてまとめられています。
以下、4つの柱ごとに重要なポイントを紹介していきます。
1. 市場シェア(Market share)
アクセシビリティの軽視で排除される人々の市場規模を考えれば、それを無視することは賢明ではない、という指摘がされています。ポイントとしては以下の通りです。
- データの出典によって数値のばらつきはあるものの、総合的な推定として、障害のある人々の市場規模は10億人を超えており、世界人口全体の15%以上に相当すると理解されている。また、障害のある人々とその家族の購買力は世界的に13兆ドルを超える。
- アクセシビリティを軽視すると、この巨大な市場(潜在的顧客)を逃すことになる。
- もし市場分析で障害当事者を含む様々な潜在的顧客層の50%が自社の商品やサービスを利用すると想定した場合、アクセシビリティを軽視することで、アメリカ国内だけでも数千億円規模、グローバルでは数兆円規模の売上を失う可能性がある。
2. 運用コスト(Operational costs)
- 運用に関する意思決定、例えば、製品やサービスの設計、開発、製造、マーケティング、流通、支払い処理などをどのように管理するかを決定する際、アクセシビリティを軽視し、障害のある人々を意図的に排除した運用上の意思決定は、成功を大きく損なう可能性がある。
参照元記事では、ひとつの例として、ある企業が新たにビットコイン決済を導入するとした場合が挙げられています。
仮に月間100万件の決済のうち30%がビットコイン決済に切り替わるとすれば、クレジットカードやデビットカードに比べ決済手数料が大幅に削減可能かもしれません(1件あたり8ドルの手数料削減が見込まれると試算すれば、年間で2,880万ドルの手数料削減が期待される)。
ところが、この企業がビットコイン決済を導入するにあたり、ビットコイン決済システムの要件からアクセシビリティに関する要件を削除することで、仮に25万ドルのコストを削減しようと決定したとします。
表面的には大きな削減に見えますが、障害のある人々をビットコイン決済から排除してしまうことで(顧客の一部は従来のクレジットカードやデビットカードしか使えないということになりますから)、期待していた決済手数料の削減効果が仮に20%減るとすると、削減できるはずだった金額のうち年間570万ドルを失う計算になります。
つまり、「短期的に25万ドルコストを削減しようとして、長期的な利益を年間570万ドル失っていると考えれば、短期的利益のためにアクセシビリティを軽視することが大きな経済損失になる可能性がある」という話です。しかも、世界中の企業でこうした(馬鹿げた)意思決定が毎日のように行われているとの指摘も。
3. リスクマネジメント(Risk management)
アクセシビリティを軽視したことによる訴訟リスクについて、日本国内ですと現状はまだピンとこない方も多いかもしれませんが、海外では一般的な話題です。
参照元記事内では、『アクセシビリティの訴訟なんて15,000ドルで和解できるのに、なぜそれ以上の金額を訴訟回避に投資するんだ?』といった考え方は間違っているのでやめましょうと指摘されています。
ポイントとしては以下の通り。
- 米国のフォーチュン500企業における訴訟を調査したところ、比較的小額の和解金であっても、その和解に至るまでに平均で35万ドル以上のコストがかかっているケースが多いことがわかった。
- 米国ではアクセシビリティを理由とした訴訟が頻発しており、訴訟関連コストは小額の和解金だけにとどまらない。
- 大企業の例では、和解金自体は1件あたり数万ドルでも、そこに至るまでの弁護士費用や担当者の工数が合計35万ドルを超える場合もある。
- そんなことを繰り返すより、アクセシビリティ対応へ投資した方が遥かに経済的であり、訴訟リスクも下げられる。
4. 人間の基本的価値の尊重(Respect for basic human values)
「正しいことをする」という倫理的観点が重要だという指摘。以下のポイントが挙げられています。
- 障害当事者を排除する行為は倫理的にも問題があり、企業イメージにダメージを与える。
- アクセシビリティ投資は『障害当事者からの利益搾取ではない』
- むしろ「誰もが等しく製品・サービスを利用できるようにすることで、企業と利用者の両方にとって Win-Win の関係が成り立つ。
排除(Exclusion)は企業の利益にならない
まとめましょう。冒頭でも述べたとおり、参照元記事では、「アクセシビリティを軽視することは企業にとって大きな損失を生む」ことが解説されています。逆にいえば、アクセシビリティに投資することで、以下のメリットを享受することが可能ということです。
- 市場拡大による売上増
- 運用効率改善によるコスト削減
- 訴訟リスクの軽減や企業価値向上
- 企業の倫理的・社会的責任を果たす
同様の内容は、以前、本コラムでも書いていますが、アクセシビリティへの投資は、障害の有無に関わらず、すべての人に利用可能なウェブサイトを提供するという意味で重要な取り組みとなります。
今回ご紹介した、Deque Systems 社のブログ記事においても、アクセシビリティへの投資は単なる「コスト」ではなく「長期的なリターンをもたらす戦略的投資」だと再認識できます。
アクセシビリティの軽視=排除による代償が決して小さくないという認識を企業の意思決定者の皆さまが持つことが今後も重要となるでしょう。
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