近年、LLMO(Large Language Model Optimization:大規模言語モデル最適化)という概念が注目を集めています。これは、大規模言語モデル(LLM)による情報収集や処理を前提として、ウェブコンテンツを最適化する手法です。

しかし、アクセシビリティを専門分野として長年ウェブコンテンツの品質向上に携わってきた立場からみれば、LLMOで求められる要素の多くは、従来からウェブアクセシビリティの実践において重視されてきた原則と本質的に同じものに感じます。

本コラムでは、LLMOの概念を整理した上で、アクセシブルなウェブコンテンツの設計・実装を行うことが、どのようにLLMOの要求を満たすのかについて思うところを書いてみたいと思います。

LLMO(Large Language Model Optimization)とは

はじめに、LLMOに対する私の理解を簡単にまとめておきます。

LLMOとは、ChatGPTやClaude、Geminiなどの大規模言語モデルが効率的に情報を理解・処理できるよう、ウェブコンテンツを構造化・最適化する手法だと理解しています。

Googleなどの検索エンジンに対してウェブコンテンツを最適化する、SEO(Search Engine Optimization:検索エンジン最適化)をAI(LLM)向けにしたものと考えるとわかりやすいでしょう。

具体的には、以下のような要素が重視されることになるでしょう。

構造化された情報の提示

HTMLにおける論理的な文書構造の構築、例えば見出しタグの適切な使用、意味論的に正しい要素選択などによって、情報の持つ意味や関係性などを正しく示すことが求められます。それによって、LLMは文書の構造を正確に把握し、重要な情報を効率的に抽出可能になります。

適切なタイトルタグ、メタディスクリプション、構造化データなど、メタデータの付与によって、コンテンツの内容と文脈をLLMに正確に伝えることなども含まれるでしょう。

明確で簡潔な表現

冗長な表現を避け、要点を明確に伝える文章構成が重要視されます。曖昧な表現や複雑な修辞技法は、LLMが文章を理解する精度を低下させる可能性があります。

また、同じ種類の情報は常に同じ形式で表現されていることも重要で、例えば同じ意味なのに異なる用語を使っていたり、逆にひとつの用語が他方では別の定義で使われていたりすると、人間でもLLMでもその理解が難しくなってしまう場合がありますから避けなければなりません。

テキストによる情報提供

視覚的に画像や動画をみることができる人間にとって、それらが与える視覚からの情報は、文章で説明されるよりも明確な場合もありますが、現時点でのLLMの性能では、人間と同等に画像や動画の中身を理解することは難しい場合もあり、テキストによって説明されていることが重要なポイントとなります。

例えば画像や動画など、テキスト以外のコンテンツであれば、その内容をLLMが理解しやすいように詳しい代替テキストを提供したり、場合によっては代替コンテンツをテキスト情報として提供することで、LLMが理解するのを手助けすることができるかもしれません。

LLMOに必要なのはマシンリーダブルなコンテンツ

ここまでの内容を踏まえるとおわかりいただけると思いますが、LLMOは本質的に「機械(プログラム)が理解しやすい(マシンリーダブルな)コンテンツ」の作成を目指していることが分かります。

LLMの進化スピードはめまぐるしいですが、とはいえ、人間のように複雑な文章や画像、図版、グラフ、表などが組み合わさったドキュメントを、場合によってはそのドキュメントの背景や文脈まで加味しつつ正確に読み解いていったり、タイポグラフィのみから、どこが見出しで、どこが本文で、どれが注釈なのか、などといった文書構造まで理解していくようなことはまだまだ難しいのが現状です。

LLMに正しく理解(LLMが本質的に「理解」しているかはさておき)させるには、HTMLなど、標準化された技術による構造化され、意味づけされたデータが必要であり、その構造化や意味づけが正確であればあるほど、機械はその内容を正しく読み込み、処理することが可能になります。

これは、ウェブアクセシビリティに関しても同様です。

ウェブアクセシビリティには土台となる4つの原則、知覚可能操作可能理解可能堅牢 がありますが、これら原則への対応においても、ウェブコンテンツがマシンリーダブルであることは重要な前提条件のひとつとなります。

なぜなら、ブラウザなどのユーザーエージェントや、支援技術はすべて、LLM同様に機械(プログラム)だからです。

利用者がウェブコンテンツを正しく理解し、操作するためには、使用しているブラウザや支援技術がウェブコンテンツによって提示された情報やUI(ユーザーインターフェース)の意味、機能、用途などを正確に読み解き、正しくレンダリングした上で利用者に伝えてくれることが必須です。

ブラウザや支援技術が「この部分は操作可能なボタンだ」と正しく理解できなければ、ブラウザはキーボード操作でその要素にフォーカスを移動させないかもしれませんし、読み上げ環境などを使用している利用者に、そこにボタンがあることを全く知らせないかもしれません。

あるいはボタンだとわかっても、機械が理解可能な方法でラベルが提供されていなければ、利用者に「何のためのボタンか」が正しく伝わらないかもしれません。

もしかすると、今後、LLMがより進化して人間に近づき、ブラウザや支援技術などにもLLMの応用が進むことで、コンテンツ全体の内容や、前後の文脈などから、人間のように「察して」内容を読み解き、補足してくれるようになるのかもしれませんが、それは現時点でマシンリーダブルなコンテンツを意識しなくてもよいということにはなりません。

LLMOにとどまらないアクセシブルなコンテンツのメリット

マシンリーダブルでアクセシブルなウェブコンテンツを目指す取り組みは、LLMOだけでなく、検索エンジン、その他、様々なプログラムやデバイスによる情報処理の視点からもウェブサイトの評価や利用性を向上させます。結果として、利用者の利便性向上、運用効率の改善、さらには企業の収益向上など、様々なメリットが生まれます。

SEO(検索エンジン最適化)の強化

アクセシブルなウェブコンテンツは、意味論(セマンティクス)的に正しいHTMLによって構造化されるため、検索エンジンのプログラムにとっても理解しやすい情報となります。結果として、コンテンツの内容をプログラムが正しく理解し、評価すること容易にし、検索順位の向上が期待できます。

また、意味論的に正しいHTML構造は、コンテンツの保守性や再利用性を高め、ウェブサイト全体の運用効率を向上させる効果も期待できます。

検索性(ファインダビリティ)の向上

マシンリーダブルなウェブサイトは、検索エンジンのクローラーなど、プログラムがウェブページ内の情報を正確に解析できるため、ユーザーが求める情報に迅速にアクセスできるようになります。これは、ウェブコンテンツのファインダビリティ(見つけやすさ)に寄与し、ユーザー体験の向上につながります。

また、ユーザーが必要な情報に迅速にアクセスできることで、利用者満足度が向上し、結果としてコンバージョン率の改善や売上向上にも繋がる可能性があります。

多様なデバイスを利用するユーザーの利便性向上

1人のユーザーが様々なデバイスを使い分ける現在、パソコンはもちろん、スマートフォンやタブレット、さらには音声アシスタントなど、ニーズに応じて最適なデバイスを使い分けるユーザーにとってもアクセシブルなウェブコンテンツは必須です。

例えば、会社のデスクトップパソコンで利用している時は問題がなくても、帰宅してから自分のスマートフォンで表示すると文字やボタンが小さくて操作しにくい、パソコン版では利用できた重要な機能が全く利用できないといったことがあれば、ユーザーは大きなストレスを抱えることになります。

競争優位性の確保

グローバル化と多様化が進む現代市場では、アクセシブルなコンテンツ制作を実施する企業は、幅広いユーザー層の獲得という大きなメリットを享受できます。

特に、企業のウェブサイトが情報発信や顧客・ステークホルダーとのエンゲージメントを促進する主要な窓口となっている中で、すべてのユーザーが快適に利用できる環境を整えることは、競合他社との差別化に直結し、ブランド価値の向上にも寄与します。

また、前述の通り、マシンリーダブルなデータ構造を実現したウェブコンテンツは、各種新技術とのシナジー効果を生み出し、結果として企業の競争力向上に直結します。

LLMOという新しい概念に飛びつくのではなく、普遍的なアクセシビリティ向上に取り組みましょう

LLMOという概念の登場は、ウェブコンテンツの品質について改めて考える良い機会です。しかし、その本質を理解すると、LLMOで求められる要素の多くは、アクセシビリティの分野で長年培われてきた原則と実践方法に既に含まれていることがお分かりいただけると思います。

真に価値のあるウェブコンテンツとは、人間にとっても機械にとっても理解しやすく、利用しやすいものです。そのようなコンテンツは、特別なLLMO対策を講じることなく、自然にLLMにとっても最適な形式となります。

ウェブマーケティングの世界では、定期的に新しい用語が生まれ、「○○の時代は終わった」「これからは●●の時代だ」といった話題で持ちきりになりがちです。

しかし、本質的な部分を理解すれば、優れたウェブコンテンツに求められる基本的な要件は大きく変化しておらず、すべての人が使えて、多くの人に使いやすく、わかりやすいと感じてもらえるウェブコンテンツを目指すことがいつの時代にも重要だと言うことに気がつくでしょう。

ぜひ、企業の皆さまにおかれましては、「LLMOに取り組まないと時代に取り残されますよ」といった一時的な流行や煽りに左右されず、より長期的な視点で、本質的な取り組みに予算とリソースを投入していただくことを願います。

ちなみに、実は10年前にも以下のコラムを書いており、今回の話題とほぼ同じようなことを書いています。